長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-3月号」職場における社会不安障害

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コラム「LOUNGE-3月号」 ―職場における社会不安障害―

(2012年3月12日掲載)
新しい職場に配属され周囲の注目を浴びることが多くなる、役職が上がり人前で話す機会が増える、男性の多い職場で異性からの視線を感じやすい環境で過ごしているなどをきっかけに、ドキドキしたり顔が赤くなったり、手が震え身体中から汗が吹き出したりする症状が日常的になると、人には言い難い悩みを抱えることになります。このような緊張は、単なるあがりやすい「性格」の問題として片付けられることがあります。ところが本人にとっては大変な苦痛であり、人前に出るエピソードの予定される1か月も前から緊張が高まり、日常業務に支障をきたすこともあります。
たとえば、仕事が熟達してくると職場から信頼を受け、他の従業員や顧客に対して広く知識や経験を伝達する場面が増えてきます。自分が緊張しやすく、人前での動悸や発汗、手の震えなどがあっても、断ると上司に悪い印象を与えるのではないか、役立たずと思われはしないかなどと思い、つい引き受けてしまい、後で悔やんでしまうケースがあります。新人や学生の頃は回避できていたことも、経験のある社会人として職場では通用しません。人に相談する程のものではないという社会通念から、一人で悩み何年にもわたり苦しんでしまうのです。そこには、その方の育ってきた過程において、社会的場面での失敗体験やそこでの恥や恐れの感情が再燃する可能性への不安が潜んでいます。つまり、意識下には、常にまたあのようなつらいことが起こってしまうのではないかという強い恐怖心があるのです。
ちなみに、企業に見られる社会不安障害は5つの型に分けられます(保坂)。1.再発型:もともと社会不安障害があり回避していたが、就職をきっかけにストレッサーが加わり再発したタイプ。2.赤面恐怖型:日本的古典的なタイプ。3.営業・プレゼン型:中堅になり営業職が回ってきたときに慣れないプレゼンをしなければならなくなったときに発症するタイプ。4.役職型:役職のためにスピーチや乾杯をする際に緊張から発症するタイプ。5.うつ病合併型:根底にうつ病があり、その症状として社会不安障害の症状がみられるタイプ。このように、職場の社会不安障害は潜在的なものを含めるとかなり多いと思われます。
幸い医療機関に結びついた場合、どのような治療があるのでしょうか。以前にもこのコラム(あがり症について;2009年12月号)で述べましたが、薬物治療と認知行動療法、および精神療法を組み合わせていくことになります。これまでの治療実績からしますと、多くの方が社会的場面を回避することなく職場適応の改善がみられています。人は、不安や恐怖を抱く状況や場面を無意識的に回避しようとする傾向があり、不安は生きるために必要な生理的反応であると同時に頻回に不適切な状況で生じると日常生活や業務に支障を来すものでもあります。治療を通して、それまで長年回避していた事柄に積極的に取り組めるようになり職場での自信を取り戻すことは、その方の生き方そのものへの変化をもたらしますし、企業にとってもその生産性という点からはメリットがあるわけです。

―待合室で読める本から―

「「うつ」とよりそう仕事術」(Nanaブックス) 酒井 一太 著
休職と復職を繰り返し、現在はほぼ寛解状態である著者が、うつ病を経験したものにしかわからない生活上の工夫について述べています。42の項目に分けてあり、すぐにでも実践し効果の望める内容となっています。
「職場はなぜ壊れるのか」(ちくま書房) 荒井 千曉 著
昨今の産業医は働く人の心の病だけでなく、職場の成果主義に満ちた環境への提言を求められる時代であります。産業医の視点から、職場で今何が生じているのかに気づかせてくれる良書です。
「社会不安障害」(至文堂) 現代のエスプリ
社会不安が緊張しやすい性格傾向であるのか、不安障害としての病気であるのかの境界線について明確にし、その治療と予防について総括的に触れています。
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