長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-9月号」うつ病発生の筋書き

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コラム「LOUNGE-9月号」―うつ病発生の筋書き―

(2012年9月11日掲載)
人との関係において、相手からどう思われているのかを優先に考えてしまうことから、自分は我慢して葛藤を知らぬ間にため込んでしまうタイプの方を多く見かけます。他者に献身的で能率よく仕事を成し遂げるので、次第に頼まれごとが増え業務量が増えてきます。断ると相手に悪いという思いが強いため、とりあえずイエスと言い、自分のことは後回しになります。結局、仕事が滞り、「できない自分」が意識され自己嫌悪に苛まれます。そのような鬱積した感情をコントロールする遊びのこころを持たない場合、息抜きもできずひたすら耐えながら葛藤だけが増幅します。
ところで、人と人とのコミュニケーションの仕方には一定の交流パターンがあると考え、人の思考、感情、行動のもとになる自我状態をグラフ化してあらわすエゴグラムが臨床で用いられます。それによると、私たちは親、大人、子どもの自我状態を相手との交流の場面で使い分けており、その人特有のパターンが存在します。ちなみに、先ほどのケースはN型タイプに多く見受けられます。このタイプの人はAC(Adapted Child)という親の影響を受けた順応的な子どもの自我が優位ですので、他人に依存し周囲に合わせて生きていこうとし、主体性に欠け他者の目を気にして自分の思っていることを表現できないジレンマに陥りやすいのです。次第に自分には価値がないと感じ、劣等感を持ちやすくマイナス思考が優位になってきます。
一方、うつ病や不安障害になりやすい性格傾向として他者配慮性が特徴として認められます。一般に、協調性や周囲との調和はもとより大切にされるものですが、自分のことより他人が優先されます。人に気を遣い、人に合わせて生きてきたので、自分のことが疎かになります。このような傾向は、誰にでも大なり小なりあるものですが、うつ病や不安障害の方には過度にこの傾向が認められます。合わせすぎて、自分がどのように振る舞って良いのかわからなくなってしまうのです。これらのことは、潜在的な悩みとして感じられているものの、大方恥の感情を伴いますので、人に相談されることはありません。人に言ったらかえって迷惑をかけてしまうのではないかという不安も伴います。次第に怖れの感情へと発展し、自分が嫌われているのではないか、知らないところで人に笑われているのではないかという猜疑心を伴ってくる場合もあります。ですから、職場や家事において何らかの支障をきたして始めてクリニックに受診されるのです。
治療としては、まず自分の自我状態について知ること、十分に理解することです。専門家に見立てを依頼したり、エゴグラム(TEG−U)などの心理検査を用いてもよいでしょう。そして、緊張や不安は誰にもある当然のものとして受け止められるこころの在り様が大切です。緊張することや不安になることを多くの方が排除しているからです。カウンセラーとの間で排除していた自分に気づき、そのような自分を受け入れていくことも改善へとつながります。もちろん、薬物治療としてSSRI(抗うつ剤)や抗不安薬をうまく使いこなせれば、それも良いでしょう。いずれにしても、抱え込んだまま一人で悩んでしまうことから早期に脱却するべく方策を考え実行することではないでしょうか。

―待合室で読める本から―

「パニック障害と過呼吸」 幻冬舎新書 磯部 潮著
パニック障害は不安センサーが過敏になった状態とし、呼吸の整え方や認知療法的思考の要点を網羅し、一般に用いられている薬物の用い方にも触れています。
「上海メンタルクライシス」 長崎新聞新書 小澤 寛樹著
著者が上海に開設したメンタル室で経験した多くの症例をもとに、うつ病や不安障害の見立てから治療までを解説しています。メンタルヘルスの理解に役立つ好著です。
「日本人の<原罪>」 講談社現代新書 北山修+橋本雅之著
うつ病をはじめとする心の疾患には、繰り返されている幻滅と別れなど心の台本があります。そのストーリーの理解だけでなく、現代のわれわれの生きる指標として日本神話を読み解くことの意味を教えてくれます。
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