長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-3月号」慢性疼痛とうつ

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コラム「LOUNGE-3月号」慢性疼痛とうつ

(2013年03月06日掲載)
 長期に持続する身体的痛みを有する方の治療をお引き受けすることがあります。一般にうつ病は痛みに関し敏感になりますし、慢性疼痛は抑うつ症状を来します。整形外科的・脳外科的疾患に伴う痛み、がん性疼痛、糖尿病性疼痛、頭頸部痛、線維筋痛症などに抗うつ薬の効能が知られています。有効容量についても、抗うつ効果を現すよりも少量で鎮痛効果が得られます。当初は、うつ症状の改善が鎮痛効果をもたらすと考えられていましたが、うつ症状のない方にも鎮痛作用を発揮します。
 原因はともかく長期に身体的な痛みが持続すると、人間関係や身体機能に加え、自己の価値観や自信と誇りなどが失われます。それに伴い社会的職業や家族を失うこともあり悩みは深刻です。「この痛みさえなければ」という焦りと怒りが生じやすく、それが内向するとうつ状態を引き起こします。日常生活は制限され、これまでの社会的対人関係の場に出ることすらできず、友人に誘われても断るしかなく自宅に引きこもった生活になると、身体を動かすことに慎重になり悪循環に陥るのです。
 精神分析的な視点から痛みをみますと、「身体は、自我によって、母親などと同じ“対象”としてとらえられる。そして、他者(対象)との関係における危険を伝えるシグナルが不安である。つまり、身体という対象との関係における危険を伝えるシグナル(情動)が痛みである」と理解されます。このように痛みを自我と身体との関係としてとらえれば、痛みが器質因か心因かの区別は不要になります。ちなみに背景にある心理的要因としては、怒りを向けていた対象がなくなり、行き場を失った攻撃性が自己身体に向かうため罪悪感を伴い身体症状としての痛みとして表出されるというカラクリがあります。
 治療としては、急性期に役立った鎮痛剤や抗不安剤は慢性になっても同じ治療を続けていますと薬物に対する耐性が高まり、薬物への依存が生じます。一旦薬物依存になると減らすのはやっかいです。こうした悪循環を断ち切るためには、抗うつ剤の使用が勧められます。もちろん医師との信頼できる関係の元に使われて初めて効果を発揮します。安全で効果も証明された治療薬ですので、副作用に注意しながら服用し、痛みの価値(意味)についても面接で話題にすることが肝要です。

―待合室で読める本から―

「痛みの心理学」(中公新書) 丸田俊彦 著
不快なものとしての痛みを超えて「痛みの価値」に注目し、生理学的な理論を踏まえたうえでパーソナリティと精神分析、治療関係、家族関係など複合的視点から考察を深めています。
「痛みと身体の心理学」(新潮社) 藤見幸雄 著
「痛む身体は私たちに何を伝えようとしているのか」と、痛みを因果論的病気観から解き放ち、意味や目的のある目的論的立場から、痛みや症状を意味あるものとして大切にみていくことで、人生を深く味わって生きていく方策を教えてくれます。
「腰痛改善マニュアル」(実業之日本社) ロビン・マッケンジー 著
腰の痛みについて、薬に依存することなく、自らの実践で改善していくリハビリテーションの方法が詳細に解説されています。受け身的でなく、よりポジティブに痛みに関われるようになります。
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