長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-4月号」大人になって手にする絵本の楽しみ

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コラム「LOUNGE-4月号」大人になって手にする絵本の楽しみ

(2013年04月08日掲載)
 人生後半になって絵本を読むことにはどのような意味があるのでしょうか。幼いころ、夢中になって絵本を読み、日常から離れた空想世界に漂っていた時間は、現在大人になった私たちのこころの中にも息づいています。ネットやケイタイなどの情報に日々影響を受けている毎日の中で、こころの潤いが足りなくなってくるように感じるとき、絵本を目にすると砂漠で出会ったオアシスのごとく一息つけます。絵本には深い味わいがあって、あらためて人生や生き方についてとても大切なことに気づけかせてくれます。
 さて絵本と言えば、最も身近なものが“読み聞かせ”を通して絵本に触れることです。子どもにとっては、読み手の絵本の物語への深い共感による肉声の言葉を受け止めることで、目と耳、身体全体で感じることのできる素晴らしい体験です。それ以上に、読み手の側も新しい意味を発見したり、気づきを得たりしながら深く感動することもできます。つまり、読み聞かせは個人の誰もが経験したであろう原初の創造性に気づかせてくれますので、あらためて人生は生きる価値があると感じさせるものにほかなりません。
 これまでの臨床を振り返ってみましても、絵本に教えられたことは多々あります。印象的な絵本の一つに「手袋を買いに」(新美南吉著)があります。担当していた盗癖のある思春期の女性が語ってくれたもので、やさしい母ぎつねと子ぎつねの物語です。手袋を買いに人間界に行った子ぎつねが、お母さんに言われていた化けた人間の手ではなく間違って本当の手を差し出してしまったが、帽子屋は狐の手とわかって手袋を売ってくれたという話で、人への信頼がテーマになっています。その方も、盗癖のある手とそうでない手があり、そこでの葛藤と母との信頼関係が大きな課題でした。当時わたくしはその物語に触れたことで、深く理解できたと感じました。
 ちなみに、絵本は美しいものでもあります。手元において、何度も読み返したいと思うだけでなく、触れたときの手の感触や感覚を大切にしている手工芸のような作品もあります。また、興味深い仕掛けもあり、何年たっても色褪せないものです。子どもだったころの自分を思い出しつつ、今の悩みや心情にそっと寄り添ってくれる、絵本との出会いをもってみてはいかがでしょうか。きっと日常的世界が新しい意味をもって、私たちの前に現れるかもしれません。

―待合室で読める本から―

「大人のための絵本の本」(エンターブレインムック)
何度でも読みたくなるような、今手にしたい100冊の絵本が、挿絵のある内容紹介とともに掲載されています。その日の気分で、自分に合った絵本が選択できます。
「砂漠でみつけた一冊の絵本」(岩波書店) 柳田邦男著
著者は“大人こそ絵本を読もう”という思いで、広くメッセージを伝え続けています。大人だから発見できる絵本の読み方をわかりやすく説き、わたしたちの心の糧が見つかる一冊です。
「美しい絵本」(阪急コミュニケーションズ) pen books
思わず手元に置いておきたくなる、見るだけでなく五感で楽しめる絵本10冊を厳選して紹介しています。この本自体、ページをめくるごとに美しさが感じられ、イマジネーションが掻き立てられます。
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